『夕暮の諧調』秋雲を染めゆくは
歌人塚本邦雄(1920~2005)の存在を知ることとなったのは、たしか昨日取り上げた寺山修司の『黄金時代』(1978年刊)だったという記憶がある。
歌人、という肩書だけで、何かしら特殊な人物であるような印象を受けた。
いくつか著作を読んでみると、寺山とは異なる並々ならぬ教養の厚みがこの人物の内には確固として存在している、という手ごたえを感じるところがあった。
『夕暮の諧調』は、1971年刊行の、主に詩歌に関する評論集となる。
『古今和歌集』の歌人を中心とした歌人論、葛原妙子や坪野哲久などの現代の歌人論、西東三鬼などを論じた現代俳句論、他に小説家に言及した文芸論などで構成されている。
たしか、俳句に強い興味を持つきっかけとなったのは、いま挙げたこの本所載の俳句論であったはず。
その後、この著者の評論集を何冊か読むに及び、文芸に携わるためには、これほどまでに広範な視野と知識が必要なのか、と正直暗然としたことをおぼえている(それこそ絶望といってもいいかもしれない)。
しかしながら、古典文学、和歌、俳諧、漢詩、聖書、海外文学、小説、文芸評論、現代詩、短歌、俳句等々、個人的には、その学恩ははかりしれないものがあるな、といま改めて思う(当然、いずれもせいぜい部分的な知見を得たに過ぎませんが)。
思えば、この世代は、他ジャンルの表現者にしても、非常に勉強熱心だったのである。
まあ、現在となっては、文芸の世界であれ、特に浩瀚な知識がなくても割合やってゆけるところがあるのかもしれないが。
そういえば、ご本人の姿を実際に目にしたのは一度きりだったな、と。
改めて考えてみると、この人物の存在がなければ、俳句に手を染めることはなかったかもしれない。