2013年10月23日

一塵や手にせり『オクタビオ・パス詩集』

短い詩作品の存在は、日本であれ、海外のものであれ、膨大な数にのぼるが、個人的に忘れ難いのは、オクタビオ・パス(1914~1998)の『東斜面』収載の「幻影」である。

幻影

もし人間が塵であるとしても
平原を通り抜けて行く者たちは
人間である

(出典 『オクタビオ・パス詩集』真辺博章 編訳.土曜美術社出版販売,1997年1月)

オクタビオ・パスは、メキシコの詩人で、1990年にノーベル文学賞を受賞。
一時外交官として日本に赴任していたことがあるという。
それをきっかけに、日本の書籍に親しむようになり、やがてそれが昂じて、なんと母国において芭蕉に関する本を出版するまでに至ったそうである。
本人曰く、日本での収穫は、「徹底的に言葉の無駄を省く」という気付きだったとのこと。

この「幻影」にしても、確かに無駄な表現を削ぎ落としたコンパクトな詩となっている。
また、「マクロ的な視点」と「ミクロ的な視点」の併存ゆえであろうか、若干禅的というか、やや日本的な雰囲気がいくらか感じられるようである。
この詩は、やはり俳句の存在が意識されて成されたもの、となるのであろう。
ここに表現されている内容からは、どこかしら次の句の存在が髣髴としてくるところがある。

馬ぼくぼく我をゑに見る夏野哉   松尾芭蕉

月天心貧しき町を通りけり     与謝蕪村

蟻の道雲の峰よりつづきけん    小林一茶