狂ひ痩せてもはや鼠に見えぬなり
東京に来てからは鼠とは縁がないが、
少なくとも僕の実家の天井には鼠が走っていた。
妻よ天井を隣の方へ荒れくるうてゆくあれがうちの鼠か 橋本夢道
もう少しで寝入りそうになる頃合いになると、
たたたっと軽い足取りで走り回る物音が微かに聞こえていた。
時折、その姿を廊下で見かけることもあった。
実家には「ネズミホイホイ」が仕掛けられていた。
ある時、捕まったばかりの新鮮な鼠を鷲づかみにした祖母は
ぽきり
と首の骨を折り、実家の裏口から川へ抛り捨ててしまった。
小学生の頃、子どもたちの間で
ハムスターを飼うことが流行った時期があったが、
ついに実家では飼う勇気が出なかったことは言うまでもない。
以下、鼠の登場する句をいくつか。
春風や鼠のなめる角田川 小林一茶
震災忌路地を鼠の走りけり 鈴木真砂女
劇に出て鼠の役や卒業す 田川飛旅子