黄昏や白桃を食ふ歯を開く  石田波郷

『定本石田波郷全句集』(集英社・昭和42年)より引いた。

赤い黄昏を見ながら、白桃を食べている。白桃を食べるために歯をひらくのだろうが、その接続を省略することで、食べることに夢中な様子がよくわかる。丸々とした桃に残る歯型。いや、桃はやわらかく、歯型はあまり残らないだろう。やわらかい桃はよく水分を含んでいる。そこから滴る汁が、黄昏に広がってゆく気配を感じる。黄昏の赤は、真紅にゆっくりと桃の汁を混ぜたような色と言うのが近いのかもしれない。

歯を開き、桃を食べる行為を逆転して描くことで、句に間が生まれる。間を感じることで、上五が「や」で切れてから、下五に着地するまで、やや距離を感じる。その距離の間、穏やかな時間にも関わらず、作者はやわらかいものを潰す残虐さに浸るのだろう。

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