2011年7月5日

99人の敗北者が手招きする やめろ
  
飼い主の御中虫が、へこんでいる。このくそ暑いのに毛布を被って微動だにしない。とはいえ彼女は異常なまでの気分屋なので、あまり気にすることもないのだが、
私の餌を補充しわすれているので、しかたなく声をかけてみた。

「なにをそんなに落ち込んでいるのさ」
「うるさいな、口をひらけば餌餌餌餌!」
そんなことは言ってない。
「なんつーか、あたしはさぁ、人生に勝利したいのよね」
やばい。この人が人生とか世の中とか言い始めたら、朝までかかる。  

私は勝手にケージを開けて、餌袋を噛みきってぼりぼり餌を食べた。餌はそこらじゅうに散乱したが、知るもんか。

「なのにどう?あたしのまわりには、人生の敗北者とでも言うべき凡庸な輩がうぞうぞしていて、あたしは彼ら彼女らと、マァ、知り合いってゆーんですか。友人なわけです。それはまあいいわよ、あたしが選んだ人間関係だから。でもさ俳句賞を受賞してからは特に、今まで知らなかった人間どもがあたしの周りを多かれ少なかれうろちょろうろちょろ、何が欲しいの!?あんたらにあげるものなんかなにもないわよ!句集が欲しけりゃアマゾンで買いなさいよ!どーでもいい人に句集を進呈するほどあたしはお人よしじゃないわよー!」
興奮のあまりベッドから転げおちてしまった。  

「あのー、毒舌はそのへんでやめといたほうがいいですよ、このspicaって結構人気あるサイトだし…虫さんの評価、いまMAX下がった気がします。それに虫さんのまわりは信じられないぐらい、いいひとで埋め尽くされていると思うんだけどな」
「うん、それは認めます」
虫はベッドと床の間の間に転落したまま答えた。
「でもだからこそ、許せないひとが増えたよね。あの人もあの人もあの人もあの人も、すっごくいいひとで、かっこよくて、尊敬できるのに、なんで一部のおまえたち愚民どもは…あ、愚民はNGか。なんで一部の的外れな人間たちが、虫の周りには存在してしまうのか。いい人が集まるのは彼らの心が広いからですが、同時に残念な人が見切れるのは、やっぱ虫に『人生の敗北者アウラ』が出ているからだと思うんだなあ。ゴキブリホイホイみたいな気分よ。」
「まあでも、人間関係なんて誰しもそうじゃないんですか。いい人もいれば、残念な人もいる、と」
「だまれ兎!わかったふうな口をきくな!」
「兎って…ちゃんとノニノニって呼んでよ」
「とにかくあたしはどんなに手招きされようが、100人目の敗北者にはなりたくないってことです。あーなんか言うだけ言ったらすっきりしたな。おいでノニノニ、餌あげる」
  
…餌はさっき食べた…。
  

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