2015年7月22日

あめんぼがゐるゆふぐれの草の影

暑い。エアコンのリモコンがないからである。親切な人が「本体の応急運転ボタンを探してください」と教えてくれた。そんなものがあるのかと大喜びして探したら果たしてあった。押すと涼しい風が吹いてきた。勝ったと思った。しかしすぐにその不便に行き当った。いちいち本体を探らないとスイッチを消すことができない。寝る前に少し部屋を冷やそうと思ってつけるのはいいが消すために起き上がらねばならないのでせっかくうとうとしていたのが台無しだ。おまけにこの機能、もとはフィルター点検か何かのためのものなので温度調節ができない。やたらと寒くなる。ないよりはましだったがこれで夏は乗り切れない。

そのあと「隣人に借りたら?」と言うひとがあった。それなら解決すると思ったがつけるたび消すたびに隣人の部屋をノックするのは骨が折れる。それに隣人は朝から晩まで暇さえあればへたくそな歌を熱唱する悪癖があってあまり親しくなかった。朝の5時に「アンパンマンは君さ~」などと起こされるのだからたまったものではない。

熱中症の危険を感じたおれは授業の課題を放り出して電気屋に行った。このまえ型の違う代用機を渡されてから忙しくてそれきりになっていた。正確に言えばその前に一度行ったのだが臨時休業だった。

店に入るとお姉さん(美人)は「おお!」と言った。すっかり顔を覚えられてしまった。リモコンが見つかったのだろうと思われたに違いないがそうではない。

「こないだお借りしたリモコン、なんか使えなくて……」
「え! じゃあいまエアコンなし生活!?」
「そうなんです」
「死んじゃうよ!!!! 電池は!?」
「入ってます」
「あっ、それ違う型だ!!!」
「あ、そうなんですか」
「ごめんなさい!! こっちはつかえる! はず!」
「おお」
「ほら見て、このナショナルのロゴが上にあるでしょ、こっちは古い型なのね。で、こっちはロゴが下。ホリシタさんのとこのはいいやつだからこっちのリモコンなんですよ」
「へええ」

ナショナルのロゴの位置の話は心底どうでもよかったがこれで助かったと思った。

「これでダメだったら電話してください。届けますから! もう来ていただくわけには!!」とお姉さんは言った。フラグかもしれないと思いながらおれは店を後にした。部屋に戻ってリモコンの電源を入れた。ぶううんと音を立ててエアコンは動き始めた。助かった。おれは時間を忘れてエアコンの前に立っていた。