2016年5月8日

空蟬にひらかれてゐる裏戸かな

……僕はお父様に寄宿舎の事を話した。定めてお父様はびっくりなさるだろうと思うと、少しもびっくりなさらない。
「うむ。そんな奴がおる。これからは気を附けんといかん」
こう云って平気でおられる。そこで僕は、これも嘗めなければならない辛酸の一つであったということを悟った。

森鴎外『ヰタ・セクスアリス』