2016年10月3日

薄く虫の音水底のような朝

夜中にふと目が覚めた。闇をじっと見ているとだんだんに目が慣れてきてぼんやりと部屋の中の物の輪郭が見え始める。心細げな虫の声、犬の吠える声と、それから何の声なのか解らない生き物の声。ふいに耳元でしゅるしゅるしゅるという音が聞こえ、何かと思って顔を向けようとすると動かない。手も、足も。金縛りだ。きっと何か妖しのものが来ているのだ。「来んなじゃ!」と声を上げたいのに唸り声しか出ない。するとしゅるしゅるの音に混じって声が聞こえた。
「あんべ、こっちゃあべ」
「や゛ーーーーっ!!!」
不意に声が出て体が動いた。慌てて布団に頭から潜り込み丸まる。布団の中はきっと安全だ。大丈夫、大丈夫・・・次に目が覚めたのは朝だった。

[あんべ]来い・おいで [こっちゃあべ]こっちへ来い