2016年10月10日

流星がここまで届く日のごはん

そのお店は中村さんと呼ばれていた。万屋さん、今ならさしずめコンビニ。生鮮食料品と煙草とお酒以外は何でも売っていた。薄暗い土間の店で、奥の模様ガラスの扉を開けるとテレビと炬燵のある部屋があり、その隣の暖簾のかかった入口は奥へと廊下が伸びていた。買い物をするときは表のガラス戸を開けて「かるー」と声を掛ける。そうするとおばさんかおじさんが奥から出てきてくれるのだった。
ある時、少し近くに新しくスーパーマーケットができた。きれいで明るくて、野菜も肉もお菓子も洗剤も売っていた。みんな「あったら店、上手くいくわけながべ」とか言いながらスーパーマーケットに行った。その間も万屋さんは変わらずにお店を開けていた。年寄りは世間話のできる中村さんの方がよかったし、子供達は駄菓子やアイスを買うのには中村さんの方が気軽だったのだ。

[かる]買う。語尾が「う」のあ行五段活用の動詞、終止・連用形は「る」に、仮定・命令形は「れ」になる。負ぶう→[おぶる]、洗う→[あらる]等。