2016年10月12日

門柱に林檎がひとつ置いてある

お向かいの家のコーちゃんは二つ上のお兄ちゃんだ。おばさんが上のおねえちゃんをピアノのお稽古に付き添って出かけた時などコーちゃんはよく家に遊びに来ていた。ある日、コーちゃんはインスタントラーメンを持ってやってきた。テレビで見た「あ~らよっ、出前一丁」のやつだ。祖母は片手鍋でお湯を沸かし、袋を破ると白い塊になったものを鍋に入れた。暫らく菜箸でかましていたが、そのうち小さな袋を破って何か粉を入れた。不意に美味しそうな匂いが鍋からしてきた。いつもおはお蕎麦をよそう丼に出来上がったラーメンをよそうと、コーちゃんに「あっついすけ気ぃ付けて食べなっせ」と言って台所の机に置いた。美味しそうな匂いだったけれど人の物を欲しがってはいけないと教えられていたので、誰にも聞かれていないのに「おら腹減ってないすけ」と言いながら私は台所の扉を閉めた。

[かます]かき回す、かき混ぜる 
[あっついすけ気ぃ付けて食べなっせ]熱いから気を付けて食べなさい。 [すけ]は「~から」の意