2017年3月12日

啓蟄やパン屑払ふごと拒む

大学の卒業を控えた2月、会社の内定式があった。
私たちは教室くらいの大きさの控室に通され、「しばらく話でもしながら担当者を待つように」と言われた。ほとんどの同期とは11月に行われた内定者懇親会で見知った顔であり、とにかく仲良くするより他に時間の潰しようのない私たちは、努めて友好的に振る舞った。

当時、私の後ろは、懇親会にはいなかった女子が座っていて、話し相手もなく、所在なげにしているようだった。普段自分から女子に話しかけることなどほとんどないが、このときばかりは、少し気が大きくなっていたのもあって、思い切って、「前の懇親会ではいなかったけど、いつ頃内定決まったの?」と極めて軽いノリで話しかけた。つまらない質問だが、初対面であれば却ってこれぐらいが良かろうという判断だった。彼女は、少し考えたような視線をすぐに戻して「どうでもよくない?それ」と、これ以上ないくらい冷たく言い放った。私は「そうだね、どうでもいいよね」と小さくごにょごにょ肯って、以後絶対後ろは振り返らないようにした。もうできるだけ関らないようにしようと決めた。

その後、件の彼女と交際が始まったときに、その時のことを聞いてみると、「え、あれ西川君だったの?」と驚かれてしまったので、「誰やと思ったねん?」と思わず問い返してしまった。彼女は少し申し訳なさそうに「面倒くさくて軽いノリの人」と答えた。