昨日まで毛玉であった夏休
鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』に、「毛羽毛現(けうけげん)」という妖怪が描かれている。庭の隅から、毛むくじゃらの生き物がニュッと生えているような、不思議な絵である。詞書によれば、
毛羽毛現は惣身に毛生ひたる事毛女のごとくなればかくいふか。或は希有希現とかきて、ある事まれに、見る事まれなればなりとぞ
とある。毛女は中国の『列仙伝』に記載される仙女で、全身に毛が生えていたとされる。秦の始皇帝に仕えた官女だったが、秦が滅びてから山中で松葉を食べて暮らすうちに暑さ寒さ餓えも感じなくなり百七十余年を生きたという。だからといって妖怪とは何の関わりもなく、おそらく自ら謎解きするように「希有希現」という言葉遊びから妖怪を創作し、あとから毛女と関係づけたのだと考えられている。
一方同じく石燕の『今昔画図続百鬼』には「毛倡妓(けじょうろう)」という毛だらけの女郎が描かれている。こちらは「毛女郎」の名であるが他の草双紙や狂歌本にも登場する。
夜ふけてはすごき縄手の長雨も ふりむく顔の毛女郎かな 土師掻安
いかならむはたえはさすか知らねども あなおそろしく思ふ毛女郎 守棟
参考.吉田幸一、倉島須美子『狂歌百鬼夜狂』(古典文庫、1999)、劉向・葛洪、澤田瑞穂訳『列仙伝・神仙伝』(平凡社文庫、1993)