2011年8月20日

天井のしみから秋の蝶いでよ

鳥山石燕『画図百器徒然袋』に「天井嘗」という長い舌で天井をなめる妖怪が描かれており、詞書によれば、高い天井の家は灯火も暗く冬は寒いが、これは家のせいばかりでなく妖怪の仕業なのだ、という。

これは「家の作りやうは、夏をむねとすべし」で始まる有名な『徒然草』五十五段の、「天井の高きは、冬寒く、灯暗し」からとられたようである。天井からなにかが下りてくるとか、天井裏に何かが住み着いているとか、日本家屋の高い天井を見上げるうちに想像されたと思われる妖怪は多い。天井嘗め、もその一つかと思われるが、他に伝わった形跡はなく、石燕によって『徒然草』から創作されたとも考えられる。ただし水木しげる氏は多くの妖怪図鑑で天井嘗を描いており、自身が子どもの頃「妖怪にくわしいばあさん」に、天井なめが夜出てきて天井にしみをつけると聞いた、と語っている。

日本家屋という舞台、日常のささいな不気味さの原因として、妖怪にくわしい老人が謎解きをするという、いかにもありそうな妖怪譚であり、ある意味で現代の「妖怪」がもつ典型的なイメージを考えさせてくれる。

参考.水木しげる『図説日本妖怪大全』(講談社α文庫、1994)、村上健司『妖怪事典』(毎日新聞社、2000)