攫はれて触られてゐる良夜かな   佐山哲郎

ガサッと奪い攫われたあとの、スルスルと触られている感じ。
上五中七の、遠くから見ているようなこの無感情さが、エロティックである。
「良夜」であればあるほど、不気味で物々しいものとなるだろう。
この世界から別の世界へ攫われるような幻想的な風景すら見えてくる。
言葉がとても自在でありながら、単なる言葉遊びとは一線を画するものがあり、
俳句が俳句であろうとするエネルギーを思わせる一句だ。

『娑婆娑婆』(西田書店、2011.7)より。