鳥渡るアルタを「元の二幸」と言ふ
『塵風』第4号(私の松山巌インタビューが掲載された号)を見ていたら、上野昂志「わたしの新宿 1959-1963」というエッセイが載っていた。
《いまの新宿には、まったく興味がない。》《昔は、もっとアブなくも、面白い街だった。》
ここでいう昔とは私の生まれる十年ぐらい前になるから直接知るはずはないが、当時の新宿をよくモチーフにしていた河野典生の作品はわりと読んでいた。
日本におけるハードボイルドの草分けにして、幻想的なニューウェーヴSFの書き手でもある。
ジャズに導かれてアジアを彷徨うような作品も多く、『明日こそ鳥は羽ばたく』などは紀行的な興味でも読めた。山下洋輔との実況対談による旅行記『インド即興旅行』などというのもあった。
画像を上げた『ルーシーは爆薬持って空に浮かぶ』はそうした雑多な方向性がひとまとめになっていた短篇集だった気がする。
新作の発表はもう随分なく、近況もわからない。
最後に発表された小説がユーモア・ハードボイルドの『アルタの鷹』(大陸書房・1989年)だが、最近読んでみたら『笑っていいとも!』が出てきていて、これが作中ではずいぶんと古色のついた風俗に見えた。
しかし番組自体はまだ平然と続いているので、この辺、時間的な遠近法が少々おかしくなってくる。
句の中にある「元の二幸」というのは、『笑っていいとも!』開始当初、翌日のテレフォンショッキングのゲストにアルタの場所を説明するのにタモリが口にしていた言い方だが、新宿アルタが建ったのが1979年である。私はもちろん「元の二幸」など見たこともない。
