2012年1月22日

ルメイが叙勲されし世界に生まれけり

矢野徹は日本にSFを根付かせた巨人の一人だが、翻訳の業績が大きすぎて冒険SFの書き手としての面が目立たないのが残念。

作者と等身大の老作家が若返らされて別世界で戦わされる飄々たる筆致のこの作品、途中で性転換させられたり周りの兵士が全部女性だったりと、設定だけ見れば今のラノベにも通じるが、実際に兵役に取られた作者であるせいもあろうが、おどけた書き方なのに仕上がりは違う。内面まで平板なキャラクターと化してしまったような作者がではなく、普通の統合性を持った人間が書いている感じがする。
残念ながらシリーズは①だけで中絶。

掲句の「ルメイ」は、作中でもちらっと言及される第二次大戦中の米国軍人カーチス・ルメイ。
東京大空襲をはじめとする日本の焦土化作戦を立案し、多くの非戦闘員を殺した。
日本国はルメイに勲一等旭日大綬章を贈った。


*矢野徹『皇帝陛下の戦場 異次元戦場シリーズ①』角川文庫・1983年