2012年1月23日

《生》は《死》の中なる白さ小鳥来る

結城信一といえば清楚な少女のイメージを多用するマイナーポエット的な資質の寡作な純文学作家といった印象が強いのだろうし、この日本文学大賞を取った短篇「空の細道」もまさにそういう作品なのだが、見かけの清澄さと短さにもかかわらず、じつは鈴木清順監督『ツィゴイネルワイゼン』にも匹敵するようなシーン同士の編集の妙が仕組まれていて、生と死のはざまの得体の知れぬ領域へと作品を開かせている。
後に講談社文芸文庫版『セザンヌの山・空の細道』にも編入されたが、「死」に関するアンソロジーを編むならば真っ先に入れなければならない。

ちなみにアンソロジーに入れるべき他の作品を思いつくままに挙げれば、色川武大「復活」、深沢七郎「極楽まくらおとし図」、尾辻克彦「父が消えた」、野坂昭如「死の器」、藤枝静男「悲しいだけ」。
永井龍男の「秋」や正宗白鳥「今年の秋」なども入れてもいいかもしれない。古井由吉はどれでも当てはまるようなどれもぴったり来ないような感じがするがとりあえず「白暗淵(しろわだ)」にしておく。河野多恵子は「最後の時」もあるが他にもっといいのがありそうな気もする……


*結城信一『空の細道』河出書房新社・1980年