2012年1月27日

宇宙人を食うて緑となりにけり

小松左京のハードSFといえば日本列島を消してしまった『日本沈没』、木星を消した『さよならジュピター』、東京を消した『首都消失』など壮大な構想の長編の印象が強いが、中短篇にも引き締まった佳作が多い。

「飢えなかった男」は飛行機事故に遭ってただ一人生き残った男がなぜ飢えずに済んだのか、その謎に迫る短篇だが、架空の論理を成り立たせるために組み入れられた情報の莫大さと、手さばきの無駄のなさに驚嘆した(おかげでだいぶ後になって、妖怪の名を冠した大長編の数々で知られることになる新本格ミステリ作家のデビュー作を読んだとき、この分厚い長篇に投じられた情報の量は、優に小松左京の短篇ひとつに匹敵するという変な感想を持つことになった)。

最近読んだ「氷の下の暗い顔」はある惑星の湖底に突如、苦悶に満ちた巨大な人の顔が出現する。その成因をめぐっての、シュルレアリスティックなイメージと論理のからまりあった奔流がきらびやか。描かれているのは衰滅の相なのだが。

傑作の呼び声高い長篇『果しなき流れの果に』は中学生の頃入院中に読み、話がよくわからないままになってしまった。全身麻酔で弱った後に読むものではなかったようだ。もったいない読み方をしたものである。
こちらは恐竜が(何と)電話のベルに苛立たせられる冒頭が印象的。

  
*小松左京『飢えなかった男』徳間文庫・1980年、『氷の下の暗い顔』角川文庫・1982年、『果しなき流れの果に』ハヤカワ文庫・1973年