2012年5月2日

毒あつて美しきものあまた見し

容器と中身

創業者金田邦夫は戦前、大阪で自転車用ゴム糊の製造を営んでいたが、戦争中に空襲で工場のあらかたを焼失してしまった。焼け残ったのはゴム糊を金属チューブに充填する機械だけ。金田は戦後、この金属チューブに練歯磨剤を詰めて売り出してみた、戦前の歯磨市場はライオン歯磨が独占していたがこれらはすべて粉歯磨であり、金田の練歯磨は新しい商品であった。この金属容器入り練歯磨は顧客の圧倒的支持を受けまたたく間に大成長を遂げた。余談であるが、金田はその後合併した関連企業の星光社(自転車卸業)の新型自転車名サンスター(星(スター)と光(サン)である)を新会社名に譲り受け今日に至っているという。

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何を言いたいのかというと、世の中の技術開発の常識と全く違うことが起きていると言うことである。金田は、いい練歯磨を作ってそれを売りに出そうとしたのではない。練歯磨にそんなに情熱はもっていなかった。ただ金属チューブを開発して、自転車用ゴム糊に代わるいい素材がないかと工夫をして練歯磨を詰めたら大ヒットしたのである。

これは俳句に当てはまりそうだ。社会性とか、抒情とか、素晴らしい素材を持っているからいい俳句が出来るわけではない。いい容器(俳句形式)があり、これに何かを詰め込んでみたら大成功する、と言うシナリオである。たぶん、何を詰め込んでも成功していたのではないか。

俳句のことを考えるたびに私はいつもこのサンスターの成功を思い出す。実は私も歯磨屋ではない、チューブ屋なのである。