をみならの身に穴あまたななかまど
男のひとは村田と名乗った。黒いTシャツに作業着のズボンをはいている。おかっぱ頭の女の子は娘の菜々子ちゃん、六歳。村田さん親子は山間のK高原町から別居中の奥さんに会いに来たのだという。そこでこのわけのわからない事態に巻き込まれ、車は故障し、宿の空き部屋などを転々としている、と。
村田さんはわたしが落ち着くのを待って、スープを分けてくれた。皮つきのにんじんとじゃがいもがごろりと乱切りで入っている。あたたかいものを口に運んだのは何日ぶりだろう。
「何度も襲われかけてわかったが、あいつら、ちょっとやそっとじゃ死なない。元々死んでるんだな。死体が歩き回って人間を喰らってるんだ」
人間じゃない……。 死体が歩き回る……。 ロビーにあった女性の死体も歩いてどこかへ行ったのだろうか。
「信じられないって顔してるけどな。生きてる人間の肌があんな青白くなるか? 生きてる人間から肉の腐る臭いがするか? 腸を引きずりながら歩くか? 目玉がぶらんぶらん垂れてて平気でいられるか?」
村田さんはスポーツバッグの中からライフルを出して、弾を込めた。
「試してみたらわかる」
試す? どういうことだろう。
「そこらへん歩いてるやつ、撃ってみな」
できるわけがない。
「おねえちゃん、難しくないよ。菜々子も練習したよ」
わたしは首を横に振った。
「猪を撃つより簡単だ」
村田さんは強引にわたしの腕を引いて窓の側まで連れて行った。街路に向けて銃を構え「見てな」と言った。
青白い裸の女性が、片足を引きずりながら道の真ん中を歩いていた。
『やめ……』
「現実を見ろ」
撃った。一発はマンホールの蓋に当たって鋭い音が響いた。さらに撃った。女性の背中、肩甲骨の下あたりに赤黒い穴ができた。女のひとは前につんのめって地面に伏した。
数秒後、ゆらりと起き上がって、また片足を引きずりながら前へ前へと進んでいった。