秋深し六時を指してゐる時計
村田さん、大丈夫かな。菜々子ちゃんの熱、下がらない。
菜々子ちゃん、昨日は水ばかり飲んで、固形物を口にしなかった。今朝、「何だったら食べれそう?」と聞いてみたら、「おにく」って言った。スパムの缶詰を開けて野菜と炒めた。菜々子ちゃんはスパムだけを選り分けて食べたけど、何も食べてくれないよりはいい。
午後から菜々子ちゃんは、おでこに冷却シートを貼ったまま、キッチンのいろんな引き出しを開けて回った。オレンジ色の四角い大きなお皿を見つけて、テーブルに置いた。
「おねえちゃん、お菓子ある?」
村田さんが確保していた食料品の中に、M市名物のタルトがあった。皿にタルトをのせる。
「ろうそくないかなぁ」
ケーキに刺すようなろうそくは見つからなかったけど、小さなカップ入りのろうそくが一袋出てきた。皿の四隅にひとつずつ置いた。粉砂糖があったので、タルトのまわりにぱらぱらと散らしてみた。
熱のある菜々子ちゃんに動き回ってほしくはなかった。だけど「パパの誕生日だから」って繰り返す菜々子ちゃんを止めることは、わたしにはできなかった。
菜々子ちゃんは五時頃からずっと眠っている。「パパが帰ってきたら起こしてね」って言ってた。
村田さんはまだ帰ってこない。