舟虫の化石にならぬため走る  大石雄鬼

舟虫の走りには尋常ならざる迅さがあるが、「化石にならぬため」だったとは、驚き、そしてそうだったのかと了解できる。舟虫そのものが、太古から今に至るまでその姿をほとんど変えていない生物だからこそ、「化石になる」ということが切実なのだ。時間を振り切ることができるのか。大きい志が芯に秘められた一句。

『だぶだぶの服』(2012年9月、ふらんす堂)より。待望の第一句集。この句と出会ったのも、私がまだ大学一年生のころ。今回、あらためて出会いなおしても、この句の勢いは衰えていなかった。