2012年10月15日

たましひをこぼたぬやうにししをさく

ビジネスホテルに住むことにした。狭い場所のほうが明け方の寒さがしのげるような気がする。

左手首の傷は昨日ここに着いてすぐに消毒したけど、大きく腫れて熱を持ち、鼓動に合わせて痛む。片手が使えないと、ペットボトルの蓋を開けるのさえも不便。

手元にある食料は、レトルトカレー一袋、串団子一箱、早生みかん一つ。何かしていなければおかしくなりそうで、空にしたボストンバッグをリュックみたいに背負い、右手にバールを握って食料を探しに行った。

荒廃した街を死体たちが互いにぶつかり合いながら歩き回っている。逃げやすいように、見通しのいい、できるだけ広い道を選んで移動した。

コンビニも鼻を刺すような臭いに満ちていた。食べ物の腐る臭いと、動物の腐る臭い。制服を着た死体が顔の右半面を失った状態で倒れていた。念のためバールで軽く殴ってみると、蝿がぶわっと舞い上がった。お弁当の棚では、腐った食品の間を大量の虫が動き回ってた。ごきぶりとか、こおろぎに似た茶色い虫とか。

必要なものを鞄に詰める。缶詰、レトルト食品、ペットボトルの水。包帯もほしいけど、見当たらなかった。

ホテルに戻る直前、重さに耐えられなくて一度荷物を下ろした。その瞬間、すごい力で地面に引き倒された。蛍光ピンクのベビードールを身に着けた死体がわたしの足にしがみついていた。頭頂部にバールを打ち下ろした。ヘアスプレーの缶に穴を開けたみたいな感触で、頭蓋骨が陥没したのがわかった。血は飛び散らなかった。少し力が緩んだ隙に腕を振りほどいて死斑の浮かぶ背中を踏みつけ、何度も頭を殴った。音や気配に反応したのだろうか。まわりの死体たちがいっせいにこちらへ向かってきた。階段をかけ上がって部屋に入り、鍵をかけた。呻き声とドアに体当たりする音が何時間も続いた。