2012年10月23日

一切衆生遍ク穴ニ惑フカナ

 おかっぱのネイリストのおでこには冷却シートが貼ってあって「風邪ですか」「ちょっとしたパンデミックです」「よくありますよね」「困りますよね、ペストとか黄熱病とか」って世間話してるうちにネイルもだいたい仕上がったんだけどネイリストは泣いてしまって理由を聞いたら「パパが帰ってこないから」だそうだ、UVライトの光が突然虹色に輝いて「こうなってしまうともうUVじゃないですよね、ごめんなさい、わたしこどもだから上手にできなくて」って嗚咽してる、ああほんとだ、花柄を描いてもらったはずの爪がどろどろに溶けて赤黒く灯された手首の薔薇もすでに形をなしていないのでわたしは思わず謝ってた、ごめんね、守ってあげられなくて、ごめんね、痛かったよね、ごめんね……

 鮮やかな空色を背景に髪を振り乱して泣いているぼろぼろの女がいた。「あ」って言ったら相手も口を開けた。それはベッドに仰向けになっているわたし自身の姿だった。M市のラブホテルの一室。左手に包帯がわりに巻いた布がほどけて傷口が見えている。起き上がろうとすると脇腹が痛んで、右手だけ伸ばしてペットボトルを掴んだけど、一滴も残っていない、何日外に出てないんだろう。水が飲みたい。蛇口をなめても何も出てこない、傷口をなめてもあんまり美味しくない、美味しい食料はどこにあるんだろう美味しい肉は、そう考えていると、ふと身体が軽くなるような気がして、わ た 死 腸 し腸死わたしはドアを開けて さん 惨 歩 肉 ことにし まし た 、