白桃や死よりも死後がおそろしき   八田木枯

死後の世界とは死んだことのない我々には実感としてあり得ないもの。
死後への思いをふくらませすぎて、だんだんこわくなってくる経験は誰にもあるだろう。
また、自分が死んだあともこの世は続いてゆくということの空虚さも感じているのかもしれない。
「白桃」は、中国では不老不死の食べものとして親しまれていたり、
イザナギノミコトが黄泉の国で身を守るためにつかったりと、生死に関わりの深いもの。
その背景を楽しむと同時に、桃のやわらかな手触りやかたち、とろける甘さに癒されたい。

角川学芸出版編『覚えておきたい極めつけの名句1000』(角川ソフィア文庫、2012.8)より。

この本は、作品をさまざまなキーワードによって分類してあり、名句辞典のような一冊。
掲句は、「人間」の章の「精神 ―心理」という節に掲載されている。