2012年12月2日

犀が二重に覗く鉄棒秋日和     SSTbot

SSTスクラップ「もっと孤独のグルメ」

……とにかく腹が減っていた

今日は正午から句会で 朝起きるのが遅い俺は 食うものも食わず寝癖すらそのまま家を出てきた

夕方やっと終わった会のあと おばさま方に酒に誘われたがそもそも俺は下戸な上に ここはとにかく付き合いよりも腹ごしらえの方が先決だ
方々詫びを入れて繰り出した夕暮れの街は 通りも店も大方庶民的なようだ

平和大通りの合歓の花ひらく  榮猿丸

駄菓子屋に禁煙の札秋暖簾  榮猿丸

洗濯鋏みに留めて値札や革ブーツ  榮猿丸

蠟製のパスタ立ち昇りフォーク宙に凍つ  関悦史

ナポリタンか……悪くはない……しかしまた 色褪せてるな…
ああいう商品見本って 小さい頃は憧れたもんだよな どうやったら作れるのかは今でもわかっていないが

だめだ…限界が近い…“めし屋”だ どこでもいい “めし屋”はないのか

ええい! ここだ 入っちまえ

テレビ画面端に時刻や春愁  榮猿丸

短日の人と自分と並びたる  鴇田智哉

品書の暖簾なすなり生ビール  榮猿丸

ここは…丼物が売りの店のようだな

しひたけに螢光灯の白みたる  鴇田智哉

椎茸をくひをる口のやはらかき  鴇田智哉

となりは椎茸丼か
しかし今日の俺はきのこでは腹は満たされまい
ここはひとつカツ丼でもいきたいところだが 最近俺は太りだしている
中年の性だ
…うむ 中華丼だな

卓拭いて給仕去りたる梅雨入かな  榮猿丸

水入れてコップの水の冬めける  鴇田智哉

きたきた…

人参を並べておけば分かるなり  鴇田智哉

これは…やたらにんじんが多いぞ…うずらの卵は一個か…あとせめてひとつは欲しいところだ

木耳をおくれて少し思い出す  鴇田智哉

ああ…これもきのこか…
木耳の存在感って異様なものがあるよな
いかん だんだんときのこへ気持ちが傾いてきている
つまみ程度のものでいい きのこだ

椎茸の笠焦げて佳し串も焦げ  榮猿丸

うん 肉厚だ

食べられて菌は消えてしまひけり  鴇田智哉

ふう 満足だな

人参の三本組に出くわしぬ  鴇田智哉

ん…家庭菜園が売られているぞ…そうか だからにんじんが多かったのか…

秋風や暮らせば街は消えてゆく  関悦史

すっかり日が短くなったなあ

第33話「東京都関悦市平和大通り商店街の中華丼と椎茸の串焼き」