2012年12月15日

テールランプの街を針金の鳥わたる     SSTbot

SSTスクラップ「ハードボイルド」後編

O  「女性との名シーンというとぼくは〈合歓の花汝がゆまれるを見張りをる〉が浮かびます。依頼人の女性と雑木林まで逃げ込んだところで、彼女が「ちょっと待って」と急に言い出して木陰で用を足すんですが、彼女は奔放な依頼人で、主人公の探偵もさすがに辟易してましたね。でもちゃんと敵が来ないか見張っている。ちょっとしたシーンなんですが、妙に記憶に残って。彼女は魅力的な登場人物でした。」

K 「振り回されているのに、でもなぜか、いい関係なんですよね。」

T 「基本的に事件が終わると関係は終わってしまうが、その別れ方もいろいろだ。〈別れきて鍵投捨てぬ躑躅のなか〉のようなクールなものだとほかには〈春泥を来て汝が部屋に倦みにけり〉なんて、理由があるようでないものもあった。」

K 「彼女の部屋まで行って、ベッドに腰を下ろした瞬間ふと、この関係はもうすぐ終わるな、と、考えるシーンでしたね。男と女の関係性の寄る辺なさというものを感じさせる、何気ないけれど残る一幕でした。」

O 「〈コインロッカー開けて別れや秋日さす〉も、駅での別れ、もう二度と会うことはないであろう二人のさみしさがありました。〈短夜の窓青きこと汝を泣かせ〉も…いや…だいぶ泣かせてますよほんとにこの探偵は…」

T 「仕方あるまい。それがハードボイルドというものだ。」

K 「探偵業や女性関係以外の、私生活のシーンにも印象的なものはたくさんありますね。」

T 「忘れてはならないのはあれだな、〈受話器冷たしピザの生地うすくせよ〉。ここからあの名言が生まれた。」

O 「あなたみたいな男がどうしてそんなにピザの厚さにこだわるの?と女性に聞かれて…」

O・T 「“薄くなければピザである資格はない”。」

K 「いつも事務所での食事はピザと決まってますからね。」

O 「それと、彼の事務所にいつも飾られている花ですよ。殺風景な一室をいつもそこだけアンバランスに華やかにしているその花、下の階の大家の小母さんが毎日にこにこしながら持ってくるんですが、花瓶なんて持っているはずもなく、いつもその辺にあった空き瓶に突っ込んである。〈ガーベラ挿すコロナビールの空壜に〉、このやりとりのシーンもいいですよね。小母さんについてはほとんど詳しく書かれていないのでコロンボの奥さん的な存在なんですが、花を届けに登場してくると妙に落ち着くというか。」

T 「実は、隠れファンもいそうだな。小母さん。」

K 「では今日はこの辺で締めましょうか。これからの榮猿丸ハードボイルド俳句の行方が楽しみですね。そしてまた、名場面が生まれてくることを信じて、最新作を待ちましょう。次回は特別座談会「榮猿丸ロック俳句はこれを聴け!」をお送りします。」