掛けてある妻のコートや妻のごとし   山田露結

「コート」は人の体のかたちをしているから、人と見間違えることはあるだろう。
その人を「妻」とすることによって、たちまち情が生まれてくるのだ。
「掛けてある」から妻も同じ部屋にいるのだろうか。それでもコートを見つめている。
妻が着ているコートにもたしかに妻成分があるというところにとどまらず、
妻そのもののようだと詠み、「妻」のアイデンティティを考えさせる仕掛けが面白い。
はなやかな薔薇や白鳥になぞらえるような妻讃歌ではなく、
普通の日常のシーンを詠むことで、「妻」への愛がより読者にしみこんでくるようだ。

『ホームスウィートホーム』(邑書林、2012.12)より。