2013年7月27日

grilled offhandedly
homo sapiens
nicely brown

意訳:無造作に焼かれてヒトや焦げ目つく

一昨日は血液、昨日は脂肪、ついに今日は血液も脂肪も多く含むヒト。食人(cannibalism、anthropophagy)については、7月21日に殷の紂王が周の伯邑考を烹殺してその親に食べさせた故事、7月25日には人肉饅頭について書いたが、人間は太古より同じ人間をヒトとして、様々な部位を様々な理由で食べてきた。飢餓等緊急事態下での人肉食(ひかりごけ事件やウルグアイ空軍機571便遭難事故が知られている)、精神異常等による人肉嗜食(ジェフリー・ダーマー、アルバート・フィッシュ、ニコライ・デュマガリエフ、佐川一政等が有名)、儀式・呪術・刑罰・迷信等の文化人類学における食人俗(自分の仲間を食べる族内食人と、自分達の敵を食べる族外食人に大別される)、(迷信かどうかはともかく)薬用としての人肉食(漢方薬や2011年に話題になった人肉カプセル)、他の動物の肉に偽装されたものを食べてしまった結果の人肉食(例えば、カール・デンケ、フリッツ・ハールマン、ゲオルグ・カール・グロスマンから肉製品を買った客)等が主な理由であり、部位も脳、眼球、肉、血液、内臓をはじめ、ほぼ全てのボディパーツである。

作者は猟奇趣味の持ち主ではないし、学術的にも食人は専門外であるので、この文章に盛り込む薀蓄は最小限にする。食人に関しては専門書も多いし、インターネットだけでも大量に情報があるので(写真まである)、興味がある読者はそれらを参照されたい。ある程度の「教養」として知っておくべきことは、まず大昔から世界中で行われていたという事である。大昔と云えば、ネアンデルタール人やクロマニョン人も、人間を焼いて食べていたり、脳を食べていたりしていたようで、それを示唆する痕跡が発見されている。スペイン北部のアタプエルカ遺跡で発掘された「最初のヨーロッパ人」の遺骨からは、先史人類が人肉を食べていたことが明らかになった。分析によれば、儀式目的ではなく食用目的で敵を食べる族外食人だったらしい。その後、現代に至る幾万年もの間、オセアニア、ヨーロッパ、アジア、アフリカで人間は人間によって食べられ続けてきた。調理法も、火炙りだけではなく、生肉(カルパッチョ)、干物、鍋物、塩漬等もある。歴史の長さも実例の数も調理法も隣国中国には及ばないが、日本にも人肉食の記録はある。

さて、肝心の句であるが(人肉食について述べた後に「肝心」という表記を見ると怖ろしい)、今回は押韻ではなく、語彙のdouble meaning(「二重の意味」という修辞)で遊んでみた。英語のoffhandedlyは「無造作に」という意味であるが、文字通りに読めば「手を抜いて」という少し猟奇的なニュアンスが生まれる。英語のhomo sapiens(ホモ・サピエンス)は人間の学名であり、人間をモノ化する役割を担っているが、元々はラテン語で「賢い人」という意味であるので、この語彙を使ったことにより「賢くない人」が「賢い人」を食べるタブーが示唆される。三行目のnicely brownは「きれいな焦げ目がつく」という意味であるが、直訳すれば「素敵に茶色」であり、日焼けサロン等で肌が褐色になった人を褒めるときにも同じフレーズが使われる(nicely tannedとも云う)。つまり、本来は色白の人間がヒト肉になったという意味が隠されている。さすがに、そういったdouble meaningを和訳するのは不可能であったので、せめてもの技術的努力として五七五に収め、しかも写実的にしてみた。英語のhomo sapiensは「ホモ・サピエンス」とはせず、肉として雰囲気が出る「ヒト」という表記を採用した。

普段は、肝心の句の説明の後は、肝心の味やグルメ情報について述べるようにしているが、今回はご容赦願いたい。ヒトを食べたとされる人たちの供述によれば、猪のような味、肉の柔らかい子供や脂身のある女性が特に美味、との事だが、7月22日に採り上げたジュゴンの方が何となく美味しそうに感じられる。夏場なので怪奇・猟奇ネタを続けてみたが、涼よりも寒を得た気氛。