2011年12月(クリスマス企画)第一回 柔らかき海の半球クリスマス 三橋敏雄(越智友亮推薦)

(2011年11月27日夜、都内某宅)

江渡  今日はおじゃましまーす。

越智  よろしくお願いしまーす。

神野  はーい、よろしくね!

神野  最近さあ、みんながクリスマスモードになるのが早いよね。

江渡  そうだね、ハロウィーン終わったらクリスマス、くらいの勢いだよね。

神野  銀座とか歩いてたら、もう、クリスマスカラーよ。

江渡  ブランドのビルとか、気合いが入ってる。

神野  この「よみあう」は、毎週土曜日の夜21:00更新なんだけど、今月は、第4回目の更新が、クリスマスイブなんだよね。

越智  わお!そうなんですか!

神野  なので、今月は、「よみあう」クリスマスバージョンでおとどけしようかと。ふだんは、ここ一年くらいの新作から、お互い一句を持ち寄ってたけど、今回は、古今のクリスマスの句の中から、好きな句を一句持ち寄ってもらいました。

江渡  むしろ、クリスマスモードに、こっちからなってやれ、っていうね。イブまでのカウントダウン的な。

神野  そこで、ゲストには、クリスマスが大好きそうな、越智友亮くんに来ていただきました。

越智  お祭り好きイェイ!…って、どんなイメージすか。(笑)

神野  まあまあ、とりあえず、ゆでたてだから、パスタ食べて。

江渡  サラダもあるよ。

越智  はーい、いただきまーす。

神野  ひと足はやいクリスマスパーティーだと思って、たのしく読みましょう。

越智  これ、マグロですか?

神野  それね、ブリ。おろし和え。

江渡  美味しいよ。大根おろし、おろすのが偉いよね。

越智  美味しいですね。わさび効いている!お酒といただきたい代物ですね。

神野  お、じゃあ、純米大吟醸が好きだという越智くんのために、私の秘蔵ッ子を出しましょう。(冷蔵庫から)「獺祭 純米大吟醸三割九分」。あれ、あと一杯分くらいしかない(笑)。

江渡  あれ、ボジョレーも持ってきたよ!ワインはクリスマスっぽいかなと思って。

神野  いいね!日本酒飲んだら、ボジョレー飲もうね。

越智  旨そう…あかんあかん、笑顔になってまう。

神野  ブリのおろし和えと日本酒とか、しょっぱなから、クリスマスっぽくない?(笑)

江渡  案外、クリスマスってそういうもんなんじゃない?

神野  確かに。「へろへろとワンタンすするクリスマス」(秋元不死男)とかね(笑)。じゃあ、まず、越智くんの選んできてくれたクリスマスの句から行こうか。

越智  はい。まことに恐縮なんですが、僕、三橋敏雄の俳句を選んできました。

江渡  恐縮っていうのは、自分が三橋敏雄の孫弟子だから、ってことか。

神野  お、ってことはアレですか。

越智  はい、アレです。

 

柔らかき海の半球クリスマス  三橋敏雄(越智友亮推薦)

神野  クリスマスって言ったら、これは外せないよね。

越智  自分がひとつ押すなら、これですね。…あっ、これ、僕から言うんですよね?やだな、照れちゃうな(笑)。ええと、「柔らかき海の半球」って、どんな半球だろうって考えたとき、具体的に場所を想定するとしたら、南半球かなって。パプワニューギニアとか、気候もあたたかくて、人柄も楽観的な感じで。そんなところの空気が「柔らかき海」ってところから伝わってくるのかなと思いました。船乗りだった三橋敏雄を想定しなくても、十分鑑賞できる。

江渡  うんうん。

越智  でも、三橋敏雄の海の実感でもありますよね。海と船のあいだにいる、船乗りとしての敏雄の実感って捉えてもいいのかな、とも思いつつ。海を見て、視覚的に柔らかく感じるのはどのあたりかなって思ったとき、波のうねりとか、うねうねしてる海面なのかな。そうすると、船の上から感じているって思ったほうが、その柔らかさが体感としてより伝わる気がします。船の上にいて、ああクリスマスなんだな、という空気感が、いいよなあ。

神野  いだかれてる感じがするよね。クリスマスって、私たちはどうしても、イベントとしてのクリスマスっていうイメージが強いんだけど、この句を読むと、ああクリスマスってキリストが生まれた日だったんだな、って、あらためて思うね。「柔らかき」っていうところと、あとは母なる海のイメージがあるのかな、いだかれてるっていうゆたかな気分になるな。キリスト教徒ではない私にも、クリスマスっていう宗教行事が、実感をもって受け入れられる気がします。

江渡  南半球と北半球って、季節が全然逆になるよね。「半球」って言ったから、その季節の違いが連想できて、面白いな。

神野  わたしね、南と北っていうのじゃなくて、単純に、地球の半分だって思ったのね。陸の半球と、海の半球っていう。だから、太平洋のイメージだった。面白いね。

越智  その読みだと「柔らかき海」まででいいんじゃないですか。

神野  いや、世界の半分は海なんだ、ってことが大切な気がするな。そのくらい広い。地球儀を思い浮かべたときに、なんとなく、このあたりが半分くらい海っていうね。地球でいうと、斜め上?太平洋のあたりの、ひろーい海。

江渡  わたしは、半球っていうふうに地球を分割したうえで、なおかつ、クリスマスは地球のどこにでもあるんだよ、っていうところが面白かった。南半球にも、夏のクリスマスはある、っていう感じで、最終的にひとつになってる。主体がどこにいてもいいと思うけど、海の上にいたほうが、実感としても、柔らかさが伝わってくるよね。

越智  視覚的な側面だけだと、ちょっと弱いのかなと思って。船乗りっていう先入観も関係してるかもしれないですけど、波の揺れを感じたほうが、より「柔らかい」って感じかなあ、と。

江渡  いい読みだね。

神野  なんとなくね、これはわたしがこの句からいつも受け取るイメージなんだけど、今は陸地のベッドの上にいるのね。それで、目を閉じて、かつて海上の船のベッドで、海の揺れを感じながら寝たときの記憶を、思い返してる。そして、このクリスマスの闇のなかに、海の半球もあるんだって確信するの。クリスマスだから、そういうことが信じられるのね、それで、ゆたかな気持ちのまま、眠りにつく。これはすごく私的な読みだけど。

越智  いま辞書で調べてみたら、半球っていうのも、球を二等分した一方とか、地球を東西・南北などに二等分したときのその一方ってあるから、南北じゃなくて、紗希さんの「海の半球」の読みでも全然アリっすね。

神野  昼の半球と夜の半球とかね。「半球」って言葉をそのくらいに捉えてたから、逆に、南半球って読みが、新鮮でした。気候って視点はなかった。

江渡  ああ、今わかった。このへん(ジェスチャー)が半球ってことね。なるほど!

神野  そうそう。厳密にどこって決める必要はないから、この句の海は太平洋です!っていう気はさらさらないんだけど、でも、一応、南半球の喩としての「海の半球」じゃない、リアルな海の半球もありうるっていう、アリバイみたいなね(笑)。

越智  なんで南半球って思ったかっていうと、やっぱり「柔らかい」っていう言葉なんですよね。ほら、北の海って、硬そうじゃないですか、氷とかあって。

江渡  分かる。

越智  オーストラリアのサンタさんが、ヨットに乗ってやって来るような!句の鑑賞ってことではなくて、僕が膨らませたイメージなんですけどね。「メリークリスマス!」って感じで。

神野  海って、こっちの捉え方によって、ほんとに変わるでしょ。海はそんなに変化してないはずなのに。

越智  船酔いとかもありますしね。

神野  『崖の上のポニョ』って見た?ジブリのアニメ。

江渡  見た!

越智  見てなーい!

江渡  大爆笑だったよ。

神野  大爆笑!?

越智  面白かったっすか?

神野  面白かったよ。海の描き方がね、場面によって全然違うの。しずかできらきらと絹みたいな海面のこともあれば、波が全部くろい魚の形して岸に押し寄せてくるシーンもある。

江渡  そうそう、勢いがあるよね。ああいう描き方するんだなって。

越智  駿、見ないといけないですね。駿、見ないとヤバい。

神野  同じ海でも描き方が変わるように、日によって感じ方が変わるわけだよね。敏雄の海の句にもいろいろあるけれど、この句は、海に対してゆだねていいなって気分になってるような気がしました。クリスマスの今日だから。海に対する信頼感に似たものを感じます。

江渡  越智くんは、三橋敏雄の俳句はどう思うの?

越智  これはね、まだ、保留です。まだ、語れるほどのものを僕は持ってないので、未来的観測として、いつか、きちんと語りたい。特別な作家ですから。

神野  やっぱり、「師匠である池田澄子さんの師」っていうところかな。

越智  そうです。

江渡  大切に考えてるんだね。

越智  まだ勉強の足りない僕が、池田さんや敏雄に恥をかかせちゃうのは、絶対嫌だから。

神野  そっか、じゃあ今日は、勇気を出して、この句を選んできてくれたんだ。

越智  はい。勇気大事っす。

神野  いつか書かれるだろう越智くんの三橋敏雄論、楽しみにしてます。

(次回は、江渡華子の推薦句をよみあいます)