江渡 クリスマスの思い出ってどんなのがある?
神野 私はね、結構、ちゃんとやってもらったよ。おじいちゃんがね、毎年クリスマスが近づくと、裏山から適当な樹を伐ってきて、家の中に生木のクリスマスツリーを据えてくれるの。仏間のある、畳の部屋のはじっこだったんだけど。それを、星とか綿とか載せて、飾りつけてた。
越智 買ってきたツリーじゃなくて、リアルツリー。それはすごい。
神野 だからね、すごく木の匂いがしてるの。「木の匂いしているクリスマスツリー」って句を作ったことがあったけど、そのまんまだね(笑)。クリスマスの朝になると、弟とふたりで、冷たい廊下を走ってきて、仏壇の前をスルーして、ツリーの前にいくのね。そうすると、ツリーの下に、プレゼントがいくつも、並べて置いてあるわけ。
越智 おー、いい。
江渡 うちもそんな感じ。ずっとサンタさんがいるって信じてたから。
越智 ちなみに、何歳まで信じてたんですか。
江渡 中学校にあがるくらいまでかな。
神野 結構長いね!
江渡 毎年ね、枕元にクリスマスプレゼントが置かれてたの。で、私がね、クリスマスの直前に、悪いことをした年があったのね。そしたら、母親が私に「そんなこと言ったらサンタさん来ないよ!」って言われて。
越智 わー、怖い。
江渡 でもね、そんなことないだろう、来るだろう、って思ってたの。で、朝起きたら、プレゼントがあったの。開いてみたらね、空っぽだったの。
神野 えっ…怖い…。
越智 それ、シュール!
江渡 いやいや、おもちゃ屋さんのミスでね。
越智 あ、なんだ。
江渡 後日談でいうと、母親が、慌てておもちゃ屋さんに行って、取り替えてもらってきたんだけど、このプレゼントなし事件のせいで、私も兄弟も、サンタさんは本当にいるんだって信じちゃったの。悪いことしたのも、ちゃんとサンタさんが分かってるんだって。
越智 僕は、小学六年生くらいまでは信じてました。
神野 越智くんも、長いね。なんで、信じなくなったの?
越智 まわりが「いない、いない」って話になるじゃないですか。
江渡 なーるー!!
神野 そ、そうなんだ…(勢いに押される)。
越智 「サンタさんなんていないんだから!」って言われて。でも、モノはあるわけじゃないすか。ほしいものは、枕元に来てる。だから、最後のほうはたぶん、「信じて損は無いから、信じておこう」って、ちょっと消極的に信じてたんだと思います。信じないと、プレゼントもらえないかもしれない。クリスマスパーティーとか、してましたか?
江渡 うん、友達とか呼んで。私、12月が誕生日だから、誕生日会兼ねてたの。お兄ちゃんも、おんなじ12月生まれ。だから、我が家では、クリスマスの前後にはたくさん行事があった。いろいろしてくれたんだなって、今になって思う。
越智 うちは、オヤジがお祭り好きなんで、父が率先してやってましたね。母も一緒になって。誕生日パーティーも開いてくれてました。僕も、自分が子どもできたら、絶対、いろいろしてあげたいです。だって、お祭りって、楽しいじゃないですか。
神野 なんで、こんなにクリスマスが定着したんだろうって、ふと思うことがあるんだけど、やっぱり、贈り物をしあう、っていうのが大きいのかなって思うんだよね。
江渡 かこつけて、プレゼントしたいんだよね。バレンタインデーだってそうじゃん。
神野 クリスマスやバレンタインは「誰にプレゼントあげる?」とか、そういう明るいことで盛り上がれる楽しさがある。プレゼントするってところが、クリスマスの広まった理由のひとつなのかなって。
聖夜劇終へし天使が母探す 遠藤若狭男(江渡華子推薦)
江渡 自分の話で恐縮なんですけど、私、幼稚園がカトリック系だったの。年長組が、いつもセイタンやってたんだよね。
神野 セイタンって、生誕祭の劇ってこと?
江渡 そうそう。
神野 セイタンって、「けいおん!」みたい(笑)。星の役とか、いるんでしょ?
江渡 そ、星役はね、女の子の花形だったの。
越智 ええー、そうなんですか?
神野 星、しゃべるの?セリフあるの?
江渡 あるよ。星はね、ピンクのかわいい衣装を来てでてくるの。
越智 華さんは、何役だったんですか?
江渡 私、天使だったの!
神野 あ、じゃあ、この句、華ちゃんのこと詠んだ句だ(笑)
江渡 えへへ。劇の途中はさ、見てるほうも、やってるほうも、必死じゃない。でも、終わると、ひとりの人間に戻る瞬間がくる。だけど、子どもだから、戻っても、天使らしさが残ってるんじゃないかなって。余韻が。
神野 「おかーさーん、おかーさーん」って、きょろきょろ探してる感じ。うーん、かわいい。
江渡 この子はまだ、衣装も脱いでない。だから「天使が」。
神野 子どもだって分かってるんだけど、「天使が母探す」って言われると、ほんとうに、小さな天使に見えてくる。
江渡 「子どもは天使」って言葉はサムイけど、その天使を、逆に聖夜劇の役として出してきたっていう面白さだよね。逆手にとってる。
神野 聖夜劇で、どんな役をやったっていうことを書いてる俳句って、ひとつ、クリスマス俳句の書き方だよね。「クリスマス羊の役をもらひたる」(西村和子)とか、「ヴェール着てすぐに天使や聖夜劇」(津田清子)、この津田さんの句は、若狭男さんの句と逆で、聖夜劇のはじまりのほう。「主よ主よと言へるのが吾子聖夜劇」(今瀬剛一)も好きだな!
江渡 かわいいな、それ!
神野 「主よ」って呼びかけてるわけだから、この子は、並の登場人物なんだよね。群衆、みたいな。「主よ主よ」って、全然、この子たち意味分からずに言ってるんだよ、きっと。セリフだから覚えて、「シュヨシュヨ」って言ってる。カタカナなかんじ。
江渡 脱線していい?『聖☆おにいさん』でさあ、キリストが「主は来ませり」って歌ってるんだけど、その意味に気づいてなくて「絶対ロシア語だよ、これ」とか言ってるの(笑)聖書の言葉って、ふるい言葉だからかな、意味より音で覚えてるよね。
神野 でも、意味が分からなくて「シュヨシュヨ」って言ってる、そういう無垢な発声のほうが、実は祈りの効果があるんじゃないかなって気もしてくるんだよね。かなえてほしいとか、助けてほしいとか、すがる人の気持ちが入ってこない分、純粋な感じがする。
(次回は、神野紗希の推薦句をよみあいます)