2011年12月(クリスマス企画)第二回 聖夜劇終へし天使が母探す 遠藤若狭男(江渡華子推薦)

越智友亮×江渡華子×神野紗希

江渡  クリスマスの思い出ってどんなのがある?

神野  私はね、結構、ちゃんとやってもらったよ。おじいちゃんがね、毎年クリスマスが近づくと、裏山から適当な樹を伐ってきて、家の中に生木のクリスマスツリーを据えてくれるの。仏間のある、畳の部屋のはじっこだったんだけど。それを、星とか綿とか載せて、飾りつけてた。

越智  買ってきたツリーじゃなくて、リアルツリー。それはすごい。

神野  だからね、すごく木の匂いがしてるの。「木の匂いしているクリスマスツリー」って句を作ったことがあったけど、そのまんまだね(笑)。クリスマスの朝になると、弟とふたりで、冷たい廊下を走ってきて、仏壇の前をスルーして、ツリーの前にいくのね。そうすると、ツリーの下に、プレゼントがいくつも、並べて置いてあるわけ。

越智  おー、いい。

江渡  うちもそんな感じ。ずっとサンタさんがいるって信じてたから。

越智  ちなみに、何歳まで信じてたんですか。

江渡  中学校にあがるくらいまでかな。

神野  結構長いね!

江渡  毎年ね、枕元にクリスマスプレゼントが置かれてたの。で、私がね、クリスマスの直前に、悪いことをした年があったのね。そしたら、母親が私に「そんなこと言ったらサンタさん来ないよ!」って言われて。

越智  わー、怖い。

江渡  でもね、そんなことないだろう、来るだろう、って思ってたの。で、朝起きたら、プレゼントがあったの。開いてみたらね、空っぽだったの。

神野  えっ…怖い…。

越智  それ、シュール!

江渡  いやいや、おもちゃ屋さんのミスでね。

越智  あ、なんだ。

江渡  後日談でいうと、母親が、慌てておもちゃ屋さんに行って、取り替えてもらってきたんだけど、このプレゼントなし事件のせいで、私も兄弟も、サンタさんは本当にいるんだって信じちゃったの。悪いことしたのも、ちゃんとサンタさんが分かってるんだって。

越智  僕は、小学六年生くらいまでは信じてました。

神野  越智くんも、長いね。なんで、信じなくなったの?

越智  まわりが「いない、いない」って話になるじゃないですか。

江渡  なーるー!!

神野  そ、そうなんだ…(勢いに押される)。

越智  「サンタさんなんていないんだから!」って言われて。でも、モノはあるわけじゃないすか。ほしいものは、枕元に来てる。だから、最後のほうはたぶん、「信じて損は無いから、信じておこう」って、ちょっと消極的に信じてたんだと思います。信じないと、プレゼントもらえないかもしれない。クリスマスパーティーとか、してましたか?

江渡  うん、友達とか呼んで。私、12月が誕生日だから、誕生日会兼ねてたの。お兄ちゃんも、おんなじ12月生まれ。だから、我が家では、クリスマスの前後にはたくさん行事があった。いろいろしてくれたんだなって、今になって思う。

越智  うちは、オヤジがお祭り好きなんで、父が率先してやってましたね。母も一緒になって。誕生日パーティーも開いてくれてました。僕も、自分が子どもできたら、絶対、いろいろしてあげたいです。だって、お祭りって、楽しいじゃないですか。

神野  なんで、こんなにクリスマスが定着したんだろうって、ふと思うことがあるんだけど、やっぱり、贈り物をしあう、っていうのが大きいのかなって思うんだよね。

江渡  かこつけて、プレゼントしたいんだよね。バレンタインデーだってそうじゃん。

神野  クリスマスやバレンタインは「誰にプレゼントあげる?」とか、そういう明るいことで盛り上がれる楽しさがある。プレゼントするってところが、クリスマスの広まった理由のひとつなのかなって。

聖夜劇終へし天使が母探す   遠藤若狭男(江渡華子推薦)

江渡  自分の話で恐縮なんですけど、私、幼稚園がカトリック系だったの。年長組が、いつもセイタンやってたんだよね。

神野  セイタンって、生誕祭の劇ってこと?

江渡  そうそう。

神野  セイタンって、「けいおん!」みたい(笑)。星の役とか、いるんでしょ?

江渡  そ、星役はね、女の子の花形だったの。

越智  ええー、そうなんですか?

神野  星、しゃべるの?セリフあるの?

江渡  あるよ。星はね、ピンクのかわいい衣装を来てでてくるの。

越智  華さんは、何役だったんですか?

江渡  私、天使だったの!

神野  あ、じゃあ、この句、華ちゃんのこと詠んだ句だ(笑)

江渡  えへへ。劇の途中はさ、見てるほうも、やってるほうも、必死じゃない。でも、終わると、ひとりの人間に戻る瞬間がくる。だけど、子どもだから、戻っても、天使らしさが残ってるんじゃないかなって。余韻が。

神野  「おかーさーん、おかーさーん」って、きょろきょろ探してる感じ。うーん、かわいい。

江渡  この子はまだ、衣装も脱いでない。だから「天使が」。

神野  子どもだって分かってるんだけど、「天使が母探す」って言われると、ほんとうに、小さな天使に見えてくる。

江渡  「子どもは天使」って言葉はサムイけど、その天使を、逆に聖夜劇の役として出してきたっていう面白さだよね。逆手にとってる。

神野  聖夜劇で、どんな役をやったっていうことを書いてる俳句って、ひとつ、クリスマス俳句の書き方だよね。「クリスマス羊の役をもらひたる」(西村和子)とか、「ヴェール着てすぐに天使や聖夜劇」(津田清子)、この津田さんの句は、若狭男さんの句と逆で、聖夜劇のはじまりのほう。「主よ主よと言へるのが吾子聖夜劇」(今瀬剛一)も好きだな!

江渡  かわいいな、それ!

神野  「主よ」って呼びかけてるわけだから、この子は、並の登場人物なんだよね。群衆、みたいな。「主よ主よ」って、全然、この子たち意味分からずに言ってるんだよ、きっと。セリフだから覚えて、「シュヨシュヨ」って言ってる。カタカナなかんじ。

江渡  脱線していい?『聖☆おにいさん』でさあ、キリストが「主は来ませり」って歌ってるんだけど、その意味に気づいてなくて「絶対ロシア語だよ、これ」とか言ってるの(笑)聖書の言葉って、ふるい言葉だからかな、意味より音で覚えてるよね。

神野  でも、意味が分からなくて「シュヨシュヨ」って言ってる、そういう無垢な発声のほうが、実は祈りの効果があるんじゃないかなって気もしてくるんだよね。かなえてほしいとか、助けてほしいとか、すがる人の気持ちが入ってこない分、純粋な感じがする。

(次回は、神野紗希の推薦句をよみあいます)