ふらんす堂の句集「鳥と歩く」(2010年)より引いた。
生き物の死にゆく様を死に切るまで冷静に観察している、読み手には若干寒気のする句だ。しかし、自分が奪うその命から目をそらさないことが、かえってその生き物への愛情を感じさせる。それでも殺さないといけないと思い、殺してしまうことが当たり前になっている生き物がごきぶりだ。
言葉の使い方としては、ごきぶりにあるのは鬚ではなく触覚なのではないか。ごきぶりの触覚の長さは体長に比例するらしい。ごきぶりの動く様を見ると、触覚から動き、体が止まっていても触覚が揺れている。触覚は生の象徴のように思う。その触覚の最後の揺れを、一匹殺す安堵と罪悪感に挟まれて、作者は観察しているのだ。殺す衝動、死んだ安堵、そのあと襲う罪悪感。それでもこの先、作者がごきぶりを見たとき、その息の根を止めようと思い、止まるまで見続けるのだろう。過去、どれだけこの行動を繰り返しても、そのスパイラルをやめられない作者に愛情を感じる。