春の川本読む君へ光れ光れ  神野紗希

この一年「つくる」に発表された紗希さんの句の切れ字の使用数を数えてみると、「や」16句(内、「なはなは!」30句中で8句)、「かな」2句(同1句)、「けり」1句(同0句)だった。全部で107句あるから、少なくとも「や」以外の切れ字はかなり少なめだと言って良いだろう。俳句における型や文語、口語を考えるとき、切れ字というデーモニッシュな存在を考えずにはいられない。紗希さんは、おそらくは意図的に切れ字の使用を避けている。もしくは、ここぞというところにしか使わないようにしているように思える。

切れ字に替わって紗希さんが取り入れた手法の一つは、「呼び掛け」だろうと思う。切れ字は作者の自己完結した詠嘆を読者に伝えるが、呼び掛けは他者を巻き込んだ感情の高まりを読者と共有する。この句の場合、非生物である川に対して呼び掛けを行い、かつ「君」という登場人物を加えることで、作者と他者の関係性を読者と分かりやすく共有する役割も持たせている。以前に物語性という言葉を使ったが、この句の作者も神の視点を持った人間として、絵本の中の語り手のような、登場人物と神の視点を往来するような、矛盾を抱えた存在として描かれている。

「光れ光れ」(2012.5)より