吊り橋に苔の花咲くよその夢  江渡華子

前に3つめに分類した「境界線上にある句」とは、僕の中では掲句のような句を指す。これは1つめ/2つ目に分類した「自己を詠んだ句/他者を詠んだ句」の中間地点にあることを指すと同時に、その俳句自体が不思議な境界性を持つことから、そのように分類した。この句の世界は現実と夢の境界線上にあり、自己の認識と他者の認識の境界線上にも存在する。苔の花が咲くのが、何かと何かを繋ぐ道具としての吊り橋であることも、過剰すぎるほどにこのことを象徴している。僕が俳句を褒めるときに「全く説明できないけど、好きです」ということを言うことがあるが、この句もその言葉のような意味で、大好きな句だ。

(「がらんだう」2012.06より)