白シャツの胸に縫はれし騎士元気   野口る理

前に某俳人(意味深だが、誰に言われたのか思い出せないだけ)に、「最近の俳人は上手い句を作ろうとしすぎだよね」というようなことを言われた。そのときに、「そうか、拙さを演出することも必要なのか」と思った覚えがあるけれど、この句なんかは、それに成功した句のひとつと言えるのではないかと思う。座五の「騎士元気」はどう考えても巧みな作り方とはいえないだろうし、なにより「白シャツの胸に縫はれし」のゆったりした調子との断絶がある。
しかし、この「騎士元気」の詰まったリズムは文字通り元気だし、この放り出したような主観をる理さんの作風はちゃんと受け止めてくれる。そう思うとき、愛される句というのは、上手い下手よりもその作家の俳句として安定して読めるものなのかもしれないと思う次第。

「連休」(2012.05)より