八月や柱しずかに立っている   森下草城子

「八月」は、夏休みやお盆など家族が集まる機会の多い頃。
人が集まる家の大きな柱を想像するだろうか。ただそこに「立っている」というだけで安心感がある。
「しずか」だけれども、いや、だからこそ、柱の手触りや匂い、生活の中でつけられた傷は、
記憶がよみがえってくる私たちを雄弁にし、「柱」はそれにじっくり耳を傾けてくれるのだ。
宮坂靜生は、解説の中で「「人柱」などという哀しい柱も思い出させる」と書いている。
平易な言葉で綴られたこの一句の向こうを味わいたいと思う我々もまた、
この句によって雄弁になり、この句もまた私たちの言葉をじっくりと受け止めてくれているようだ。

宮坂靜生選「巻頭名句」(『NHK俳句 8月号』NHK出版、2013)より。