悲劇恐れず梅雨の通りを駆け抜ける   武藤いづみ

この「悲劇」は、雨にびしょぬれになってしまうというような一般的な悲劇ではなくて、
もっと個人的で複雑な悲劇であると読みたい。
他人からは、そんなことが悲劇なのかと言われてしまいそうな悲劇。
そう言われてしまうこと自体が悲劇であるし、そもそも悲劇というものはそういうものだ。
そういうことも全部ひっくるめて、この人は「恐れず」「駆け抜ける」のだ。
じめじめとした「梅雨」の空気感をも味方につけてしまう力強さがある一句。

「Sugarless」(『Phenomenon』東京家政学院高校俳句同好会、2013.9)より。

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