寒林へゆく胸のこゑつかひつつ   小川楓子

生命力あふれる林とは違う「寒林」独特の雰囲気は訪れる者にしか分からない。
「胸のこゑ」は、心の声というようなニュアンスであろう。
「胸のこゑ」が漏れ出てしまうのではなく、「つかひつつ」という意図的な言葉に、
「寒林へゆく」人のたしかな足取りと意志が感じられ、
またきっとその「こゑ」を受け止めてくれるだろうという「寒林」への信頼も伝わってくる。
そして知らず知らず読者もまた、「胸のこゑ」をつかってこの句に向かっているのだ。

特別作品「光るとほく」(『舞 新年特別号』舞俳句会、2013.12)より。