油絵の星カンバスを出る晩夏   植松彩佳

油絵の中に描きこんだ星が、誰も知らない間に、カンバスの中を出てゆく。星には星の、ゆくべき場所があるのだ。「晩夏」は、秋と隣り合わせ、もうすぐ失われてしまう、夏の最後の眩しい光を思わせる季語。星を失ったカンバスが、晩夏の光の中に、おいてきぼりにされている光景が、なんとも切ない。

  

これからはじまる、カンバスを出た星のはてなき旅と、その秘密の出立を知っている私。「砂漠が美しいのはどこかに井戸をひとつ隠しているからだね」とは、サン・テグジュペリの『星の王子様』のセリフだが、この作者もまた、“砂漠の井戸”を知っている人なのだ。

  

愛媛県立松山西中等教育学校の俳句部誌、第四号「REVOLUTION」より。部員の作品とエッセイが掲載されている。ほかにいくつか。

  

側転の後の世界や百合鴎   上田悠里衣

冬の蝶たれも透明から産まる   重松希美

海の駅百合りんりんと人を待つ   金子紗希

厚氷中指のさかむけ映す   佐々木成実

炭酸のような少女の夏帽子   山内優奈

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