つたへんとして咳となることばかな 下楠絵里

伝えようとした思いが、うまく言葉にならない。そんなもどかしさに、「咳」によっておかしみの味を足し、一句と成した。読者の私は、この句によって打ち明けてもらったから、彼女の咳の真意を知っている。そのことが、私にひそやかな幸福を与えてくれる。もどかしいぐちゃぐちゃとした思いを抱えながら、一方で自分を突き放して見る視線で「咳」をつかみ出してくる。生々しさと客観を行き来しながら導き出された十七音が、人間の微妙な心理をそのまま差し出してくる。

「里」2014年1月号より。絵里は洛南高校の二年生。いま、高校生俳人の層が厚い。新たな世代が生まれている。私もどんどん詠みたい。