きのうにも昨日ありけり薺粥  塩野谷仁

昨日にも昨日がある。当たり前のことだが、薺粥という季語を添えられると、決して過去に拘泥する暗い感情ではなく、一日一日の「昨日」の積み重ねで本日があり、薺粥を生きて啜ることができるのだという健やかな感慨が生まれる。「今日よりも明日が好きなりソーダ水」は星野椿の代表句。この句は「昨日」椿の句は「明日」だが、流れている気分は同じトーンだと感じる。

新刊の第七句集『私雨』(角川学芸出版 2014年5月)より。