鰯雲子は消ゴムで母を消す  平井照敏

「消ゴムで」がセンチメンタルな一句。もちろん、紙に鉛筆で描いた母の絵を消している子供の様子を思い浮かべてもいいのだが、この句を読んだときに、あまり風景を思い浮かべるということをしたことがない。浮かんでくるのは、ぼんやりと鰯雲の空だけ。象徴性の強い句として、叙述された内容よりも、ぜんたいの気分を受け取っているのだと思う。俳句はそういう、気分とか、感触を、モノや状況すら通さず、言葉のみで伝達できる詩型なのだ、きっと。

「俳壇」2014年6月号「誌上句集」欄より。収録は『猫町』。