ぺしやんこの紙風船の時間かな   藤田湘子

湘子の弟子である小川軽舟は、掲句の解説に、
湘子はこの句ができたときすこぶる上機嫌だった。「時間かな」がうまくいった、どうだ、いいだろう、と酒席の私たちを見回す。(略)確かにいいと思ったのだが、なぜいいのかは説明できそうになかった。
と書いている。
たしかにこの「時間かな」こそがこの句の要となっていて、
やや説明くさいこの「ぺしやんこの」という措辞をも受けとめる奥行があり、
また、なぜいいのかという説明を難しくさせる幅がある。
この難しさを難しさと受け入れた上の、小川の
時間とは無情なものだが、なぜか掲句の時間は心優しく感じられる。
という真摯な読みを支持したい。

小川軽舟著『藤田湘子の百句』(ふらんす堂、2014.7)より。