唇も桜も乾きはじめたる  藤井あかり

この句を読んで気づいたのは、桜って、濡れてたんだなあ、ってこと。散ってきた花びらをてのひらで受け止めたとき、たしかに、しっとりとしている。唇と桜を並列させることで、唇も、あの桜の花びらのように、しっとりと濡れていたということがわかる。その艶っぽさ。
そして、そのどちらもが乾きはじめてしまうこと。老いへ、死へと、ゆるやかに乾いてゆく、唇と桜。世界が終わり始めるときの甘美めく感触を、この句に触れて感じた。

散る桜が、唇からこぼれる言葉と一致する連想もはたらいたりして。

「椋」2014年8月号より。