水のはたらき泳がぬ人も水を呑み  和田悟朗

「泳がぬ人も水を呑み」という不思議な表現。
読者は、「泳ぐ人はもちろん水を呑む、でも泳がない人も水を呑むんだよ」と諭されている。確かに、泳いでいると、必ず水は口に入ってくるから、折々呑む。でも、よくよく考えてみれば、私たちは通常、“泳ぐ人=水を呑む人”という風には、連想しないのではないか。泳ぎながら水を呑むことは、非常に付属的な出来事だ。しかし、それを前提に「泳がぬ人も水を呑み」と真理を語るように伝えられると、不条理系の小説の語り手と向き合っているような気分になる。

「俳句」2014年11月号より。