旅に似る一日や柿の木には柿  櫂未知子

今日は、ふだんのように過ごしているのに、なんだか旅にいるような気がする。
柿の木には柿がなっている。そんな当たり前のことも、旅の気分で見つめれば、ちょっと楽しく尊い。

虚子の「蜘蛛に生れ網をかけねばならぬかな」が、蜘蛛以外のすべての声を代弁しているように、また桂信子の「青空や花は咲くことのみ思ひ」が、桜以外のすべてのものを表現しているように、この句の柿もまた、柿のことだけを言っているのでは、ない。

基本的には軽やかで明るい句だが、ちょっと角度をかえて、世界の真理を読み取ることもできるところが、この句の前に長く私をとどまらせる。

「六分儀」11号(花乱社 2015年2月)作品5句「手紙」より。