きつね来て久遠と啼いて夏の夕  久留島元

コン、ではなく、クオン。永遠を意味する響きをもった狐の声に、人類史という小さなカテゴリーの上位にある、はるかな世界史の時間が広がる。空は暮れて、草原は暮れて。吹きわたる風に立つ、狐のまなざしの涼やかさよ。
読後感には、さらりと掌から何かが零れ落ちた感覚だけが残る。心地よい。

「東京がなんぼのもんじゃ」という文言が帯におどる『関西俳句なう』(本阿弥書店 2015年3月)は、「船団」に所属している若手作家十三人と他結社・個人の作家十三人の書簡交換形式による作品五十句の発表から成る一書。関西の若手俳人たちのアンソロジーである。掲出句の作者もその一人。彼の五十句から、他にもいくつか。あらためて読み返すと、案外、クラシカルな形式の上に、その本領を発揮する作家なのだった。

スクリューの泡間に消えし夏帽子
大いなる才能の無駄芒折る
日本は妖怪の国春の川
戦略的互恵関係パセリ食う
狛犬が子を生むような秋の空
みどりの夜みんな液晶みて過ごす
迂回して残暑の海へバスが着く