傷光るバレンタインの日の崖も  坪内稔典

風雨にさらされ荒々しい肌をあらわにする崖に、バレンタインの日の荒涼たるむき出しの心を重ねた。
街の風景や人との関係性が詠まれることの多い「バレンタインの日」という季語を、自然の風景の中で詠んだのも新鮮。
日のさす傷だらけの崖は、ほんとうに孤独だ。

句集『百年の家』(沖積舎 1993年10月)より。