階段ではないが、電車で別の車両と隣り合うことはたまにある。その際、向こうの車両でこちらを見ている人と目が合うと、そらせなくなって困る。徐々に近づき、徐々に離れていくから、尚更だ。徐々に離れられると、つい不安になり追いたくなってしまう。けれども、必然的に到着点の違う車両により、引き離されてしまうのだ。そんな時、少ししょんぼりする。この句に描かれている、同じ方向を向いていても行く先が違うということは、その少しのしょんぼりと、とても似ている。
それでも、その淋しさは長期性を持たず、また、湿り気もない。それは、咲いているのが凌霄花だからだろう。ぎっちりと並ぶ都会のビルの、隣り合う外階段の尚狭い間に咲く凌霄花の抜けるような鮮やかさ。その花に昏さは感じない。
句集『背番号』(角川書店 2011年)より。