2011年7月16日

思いやりは誇示してなんぼ如雨露は真紅

「雨ねえ」飼い主の御中虫が窓の外を見て呟く。
「うん」庭の草木が濡れて輝いている。

「雨かあ…何しよっかな」
「本でも読めば?」

すると虫はものすごく馬鹿にした目で私を一瞥し
「あんたってほんとーおおおに、つまんない兎よねー」

「…」

「あたしのアイデアはこうよ。見てなさい」
というが早いか虫は雨の中コーナンへ出かけていった。

20分後、帰ってきた虫が手にしていたのは、真っ赤な如雨露であった。
…如雨露?私は怪訝になったが虫はそんなことおかまいなしに、でたらめな歌を歌いながら水道をひねり、如雨露をいっぱいにした。
「うう、結構重いわね。でもここからが本番よー!」
虫は水のたっぷり入った如雨露を、えっちらおっちら庭に運び、庭木に如雨露で水をやりはじめたのである。

「ねえ、虫」
「なにー?」
「あのさ、今すっごく雨が降ってるよね」
「そうよ。だからあたしは合羽を着てるじゃないの」
「こんなに雨が降ってるのに、なんでわざわざ如雨露で水をまくわけ?意味無いと思うんだけど…」
「ノニノニ!あなたはまるっきり世の中のしくみをわかっちゃいない子豚ちゃんだわね、いい?これは『思いやり』という名のパフォーマンスなの」
「は?」
「そうよ思いやりとはパフォーマンスなのよ。いま庭木は大量の雨を摂取して満足しているはず。でもそこにさらに如雨露で水を過剰に追加し、満腹の上にさらにチョコレートケーキを与え善意をひけらかすかのような所業、これこそ『思いやり』の本質なのよ」
  
…よくわからなくなってきた。
  
「うーん…じゃあさ、晴れの日はどうするの?」
「決まってるじゃないの、晴れの日は水撒きなんかしないわよ!だってそれは当然の行為でしかなく思いやりの誇示には当たらないんですもの。さっ、水撒き終わり」
虫はそう言い放つと如雨露を裏庭に片づけにいった。

雨はいつのまにか小雨に変わり、よく見ると蜘蛛の巣が庭にきらきら輝いていた。

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